台湾歴史資源経理学会と台北ビール工場（建国ビール工場）労働組合が保存のための署名運動を共同で立ち上げる

2000年に市定史跡に指定された「建国ビール工場」の前身は、高砂麦酒株式会社で、1919年に起工、1920年に竣工、同年、操業を開始し、台湾島内で初めてのビールを製造した。100年以上の歴史をもつこのビール工場は、戦争があり、統治者が変わり、工場をとりまく環境が変化し、都市が発展し、外国産ビールが台湾へ入ってきてもなお、台湾菸酒股份有限公司台北ビール工場として、ビール製造を続け、台北圏域の市場にビールを供給している。

産業遺産ではあるが、現在でも稼働し製造を続ける「生きた（稼働中の）」工場でもある。1920年の日本統治時代の建物7棟や、1950～1990年といったさまざまな時期に建てられた建物も多数あり、100年以上も「生きて」いる5株の酵母菌株や、さまざまな年代の生産設備が現存する。しかし今日、文化保存なのか、都市開発なのか、両者の綱引きが続いている。

建国ビール工場を大学用地とすることになぜ反対するのか

1. 大学用地とすることは、この生きたビール工場を直接「息の根を止める」ことに等しい。
2. 台北科技大学は土地を手に入れ、新たなビルを建てたいだけであり、文化財を保全するつもりはまったくない。

1.大学用地とすることは、この生きたビール工場に直接「息の根を止める」のと同じことである。

建国ビール工場は、今も稼働を続けている。台北市政府は審議の上、市の古跡（文化財）に指定し、歴史建築として登録し文化資産とした。保存方向としては、行政院1999年の「文化資産保存保全維護推動小組」の決議「生産は中断しない」、「産業を生きた（稼働した）状態で保存する」という決議に従っており、建物、生産ラインで使用する機器・設備、動力炉心ボイラー、機械・電力設備、酒製造設備がその保存対象とされ、現在に至るまで操業を続けている。また、工場では2018年にクラフトビール設備を導入、製造を行っており、これは現在市場に出回っている台北市を地元として生産されている唯一の「地酒」である。

いずれの産業にも生産モデルにも生命周期があり、土地の再開発や遊休化地の再利用は、現代において、産業遺産が必ず向き合わなければならない課題といえる。しかし、ビール製造は今に至るまで、国內の酒アルコール市場の売り上げの大半を占めている。建国ビール工場で製造を行う風景は100年前と変わらず、ビールは一本一本、今もなおこの工場で製造されている。文化資産を構成する多様な空間には、大きさの異なる、さまざまなスタイルの、年代も一様ではない生産設備が今もあり、ほかの著名な産業遺産群とは大きく異なる。これは、学者の先達たちが保存に声を上げてきた積み重ねの成果である。

建国ビールという産業文化資産を保存・再利用する方向性において、最も重要なことは『産業生産をいかに維持し、充分に活かし続けるか』である。 2020年、文化部文化資産局は建国ビール工場を「文化資産および持続可能な運営という観点から、文化資産として指定あるいは登録後に、現代社会において本来の使用形態で運営を継続することができれば、それが最も好ましい保存方法である」と評価した。

2000年にすでに文化資産として指定されたとはいえ、建国ビールを稼働したままで保存することについては、全てが順調だったわけではない。台北市あるいはその他の部門は、土地利用計画に対し、たびたび大学用地や公営住宅を建てるといった「新」しい構想を打ち出してきた。つまりは、この場所がもつ再開発の価値を狙っていたということである。「再配分」と言ってはいるが、それは産業遺産の文化的な保存を前提としてはいない。現時点で行政院が計画している内容は、建国ビール工場産業遺産保存に対するコンセンサスに大きく背いている。古跡（文化財）地区を校舎にするというならば、この工場に直接、死刑を言い渡すことになる。台北科技大学は各種メディアにおいて、新たに獲得する土地に新校舎を整備したい意向を示している。これは、文化資産である建国ビール工場にはまったく適切なことではない。

行政院は生きた史跡（稼働中の文化財）の「死刑執行人」になりたいのだろうか。行政院には、文化資産の保存および持続可能な運営という立場で考えてほしい。

2.台北科技大学は土地を手に入れ、新しいビルを建てたいだけであり、文化財を保全するつもりはまったくない。

台北科技大学は、台湾菸酒股份有限公司の「代わりに」、産業を稼働したまま着実に保存しようとするつもりはなく、新たに獲得した土地に校舎を建築したいのである。2018年、台北科技大学同窓会は寄付金によって、市指定史跡の「台北工業学校紅楼」の後方にタワーを建設しようとしたが、後に大学の教員や学生、社会の各界が反対して取りやめになった。2020年には、桃園の台北科技大学付属農工高校の歴史建築が管理不十分で損壊し、桃園市政府文化局により、管理上の職務に怠慢があったとして処罰を受けている。大学側は不服を申し立てたが、文化部によって却下された。これまでも史跡の取り扱いに関して職務怠慢や文化財に対しての取り扱いに誤りがあるなかで、建国ビール工場という文化資産を大学側に委ねた場合、どうして社会一般の承認を得られるというのだろうか。

台北科技大学の用地にすることは、建国ビール工場という「生きた（稼働中）」文化財と文化の保存を亡きものにすることである。「新たな」使用方法を改めて割り込ませるのは、文化の保存とは言わない。文化の破壊である。

建國ビール工場の保存は、行政院がかなり前に決裁した生きた（稼働）保存である。行政院は現在、全台湾の、さらには全世界で産業の保存が行われている酒工場のなかで、今でも製造を続けている酒工場として最も保存が適しているものを滅ぼそうとしている。なぜ、このような、時代に逆行し、性急な、更に言えば、少子化の影響を受けている大学運営の現実と乖離した決定ができるのだろうか。

建国ビール工場を分割し、大学用地とする計画に「断固」反対するとともに、以下の3点を要望する。

【一、文化資産の稼働保存】

文化の保存を前提として検討、審議を経て承認された修復および再利用計画を実施する。すなわち、1970年代の生産ラインは動態保存を行い、1990年代の代表的な生産ラインを復旧して運用し、2018年のクラフトビールについては引続きプロモーションを実施する。

【二、、古跡（文化財）エリアはそのまま保全】

管理の権限や責任が不明確であることを理由として、産業を稼働保存できないという事態を避け、文化財の生産ラインをそのまま完全な状態での保存を維持する。「範囲内にある生産ライン関連の機器や設備」と明示した古跡（文化財）指定保存条文を遵守する。敷地内の景観を全体的に考慮し、将来的に入口広場が新たに建設される建物によって文化財が見えなくならないようにする。

【三、社会一般の利益が影響を受けない】

関連部門は企画案について公開討論を行うべきで、工場の将来について内輪で決定をしてはならない。一般の人や地域住民が長らく待ち望んでいる文化エリアや緑地のオープンスペースについては、できるだけ早く企画、開発し、土地の配分によって市民の権益が損なわれないようにする。