第6章 税額の計算
相続税の申告において、最も重要なステップの一つが税額の計算です。この章では、税額を正しく計算するための方法を詳しく解説します。
6.1 相続税の基本的な計算方法
相続税の基本的な計算は、以下の流れで進めます。
1. 課税遺産総額の算定
相続財産から、基礎控除額(3000万円 + 600万円×法定相続人数)を差し引き、課税遺産総額を算出します。基礎控除を超える財産に対して相続税が課されます。
2. 相続人ごとの課税価格の算定
各相続人が法定相続分に応じて取得したものとして、それぞれの課税価格を算定します。
3. 税率の適用
課税価格に基づいて、税率を適用します。税率は10%から55%まであり、取得財産の金額に応じて段階的に設定されています。
4. 控除の適用
各相続人の税額に対して、配偶者控除や未成年者控除、障害者控除などの控除を適用します。
6.2 課税価格の算定
課税価格は、相続財産から非課税財産や債務、葬儀費用を差し引いて算出されます。具体的には以下の項目を考慮します。
- 非課税財産
生命保険金の一部や、死亡退職金の一定額は非課税となります。
- 債務控除
被相続人が残した借金や未払金、葬儀費用などは、相続財産から控除することができます。
6.3 税率の適用
相続税は累進課税方式で、財産の価額に応じて税率が異なります。以下は相続税の税率表です。
| 課税価格(万円) | 税率 | 控除額(万円) |
| ---------------- | ---- | ------------- |
| 1,000万円以下 | 10% | なし |
| 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
この表を用いて、各相続人の課税価格に税率を適用し、税額を計算します。
6.4 控除の適用
以下の控除が適用される場合があります。
- 配偶者控除
配偶者が取得した財産については、1億6000万円まで、または法定相続分まで相続税がかかりません。
- 未成年者控除
相続開始時に未成年である相続人については、満20歳までの年数1年につき10万円が控除されます。
- 障害者控除
相続開始時に85歳未満の障害者がいる場合、その障害者が満85歳に達するまでの年数1年につき10万円(特別障害者の場合は20万円)が控除されます。
6.5 相続税の納付
相続税は、原則として相続開始から10ヶ月以内に申告し、納付する必要があります。納付期限までに支払いができない場合は、延納や物納を申請することが可能です。
- 延納
現金での一括納付が難しい場合、一定の条件のもと、延納(分割払い)を申請することができます。
- 物納
不動産などの現金以外の財産で納税することができる制度です。ただし、物納が認められるのは限られたケースのみです。
6.6 税額の計算例
具体例を挙げて税額を計算してみましょう。
例
- 相続財産:1億2000万円
- 法定相続人:3人(配偶者1人、子供2人)
1. 基礎控除額の計算
基礎控除額 = 3000万円 + 600万円 × 3人 = 4800万円
2. 課税遺産総額の算定
課税遺産総額 = 1億2000万円 - 4800万円 = 7200万円
3. 法定相続分に応じた課税価格の算定
- 配偶者:7200万円 × 1/2 = 3600万円
- 子供1人あたり:7200万円 × 1/4 = 1800万円
4. 税率の適用
- 配偶者:3600万円 × 15% - 50万円 = 490万円
- 子供1人あたり:1800万円 × 15% - 50万円 = 220万円
5. 相続税の総額
490万円 + 220万円 × 2 = 930万円
6. 控除の適用(配偶者控除)
配偶者控除により、配偶者の税額は0円になるため、最終的な税額は子供2人分の440万円となります。
6.7 まとめ
税額の計算は、各相続人の取得財産や控除の適用状況により異なります。正確な計算を行うためには、各相続人の状況に応じた税率の適用や控除をしっかり確認することが重要です。
次章では、民法や登記に関連する最新の情報について解説します。