要旨:分子性化合物は「弱い分子間力を起源とした積層構造」と「分子の自由度を有する」という特徴をもつ。前者の特徴は敏感な外場応答や低いエネルギースケールの物理現象に繋るため、強磁場を活用することで磁場に鈍感な物性であっても極限状態へ実験的にアクセスすることができる。また後者は、多彩な分子設計や分子形状に依存した特異な分子配列・結晶構造を生み出すことで、多くの興味深い量子現象が現れる基盤となる。一方で、分子性化合物は、その結晶合成に多くの専門的な技術が必要であり、更に弱い分子間力による積層に起因した柔らかい結晶であるため、実験的には取り扱いが困難である。そのため分子性化合物のパルス強磁場研究は盛んではない。
本講演では、私たちが近年進めてきた分子性化合物のパルス強磁場研究の中でも特に(超)伝導性を示す電荷移動錯体の強磁場量子物性の研究成果を中心に紹介したい。