「忠度都落 2 : 故郷の花」の本文を読んで、下の問に答えなさい。
[1] 三位是をあけて見て、「かかる忘れがたみを給はりおき( ア )ぬる上は、ゆめゆめ疎略を存ずまじう( イ )。御疑ひあるべからず。さても唯今の御わたりこそ、情もすぐれてふかう、哀れもことに思ひ知ら(a)れて、感涙おさへがたう( ウ )」と宣へば、
[2] 薩摩守悦ンで、「今は西海の浪の底に沈まば沈め、山野にかばねをさらさばさらせ、浮世に思ひおく事 ( エ )ず。さらば 暇申して」とて、馬にうち乗り、甲の緒をしめ、西をさいてぞあゆませ給ふ。
[3] 三位うしろを遥かに見おくッてたた(b)れたれば、忠度の声とおぼしくて、「前途程遠し、思を雁山の夕の雲に馳す」と、たからかに口ずさみ給へば、俊成卿、いとど名残惜しうおぼえて、涙をおさへてぞ入り給ふ。
[4] 其後世しづまッて、千載集を撰ぜられけるに、忠度のありし有様、言ひおきし言の葉、今更思ひ出でて哀れなりければ、彼巻物のうちに、さりぬべき歌いくらもありけれども、勅勘の人なれば、名字をばあらはされず、「故郷花」といふ題にてよまれたりける歌一首ぞ、「読人知らず」と入れられける。
さざなみや志賀の都はあれにしをむかしながらの山ざくらかな
[5] 其身朝敵となりにし上は、子細におよばずといひながら、うらめしかりし事どもなり。