日時:令和3年11月19日(金)11:00~
場所 : オンライン(Zoom)
講師:田中 秀数 教授
所属:東京工業大学理学院
題目:強磁場と中性子散乱で探る三角格子量子反強磁性体の基底状態と素励起
要旨:スピンの大きさが1/2で,最近接交換相互作用のみを持つ2次元三角格子Heisenberg反強磁性体(TLHAF)のゼロ磁場での基底状態は長年の理論研究からResonating-valence-bond (RVB) のようなスピン液体ではなく,120°構造の秩序状態になることが知られている[1]。しかし,秩序モーメントの大きさは全モーメントの40%程度であり,大きな量子揺らぎが残っている。スピン1/2 TLHAFでは量子揺らぎによって飽和磁化の1/3にプラトーが生ずる事が理論的に知られている[2]。本講演では,まずスピン1/2 TLHAF に近いBa3CoSb2O9で行われた1/3磁化プラトーを含む磁場中量子相転移の研究について紹介する。Ba3CoSb2O9では弱い容易面型異方性と弱い三角格子面間相互作用のために純粋な2次元系では見られない多彩な量子相転移が磁場中で起こることが分かった[3-5]。
磁気励起には基底状態と素励起の特徴が反映される。スピン1/2 TLHAFの磁気励起は線形スピン波理論の結果から大きく異なることが知られているが,理論的コンセンサスは単一マグノン励起に限られている。逆格子空間のK点(三角構造の磁気秩序に対応する波数ベクトルの点)近傍の単一マグノン励起は線形スピン波理論と一致するが,波数ベクトルがK点から離れると,励起エネルギーは線形スピン波理論の結果よりも急速に低下し,分散関係にはM点でroton-like minimumと呼ばれる極小が現れることが知られている[6]。本講演の後半では中性子散乱で得られたBa3CoSb2O9 [7]とBa2CoTeO6 [8]の磁気励起を紹介し,両物質の磁気励起からスピン1/2 TLHAFに共通する普遍的な磁気励起スペクトルを示す。最近の理論研究から,RVB的状態からのスピノン励起を考えると実験で得られた磁気励起の特徴をある程度説明できることが分かってきた[9]。これは基底状態が秩序状態であっても,揺らぎとしてRVB状態が残っていることを示している。
[1]
例えばS. R. White and A. L. Chernyshev, PRL 99, 127004 (2007).
[2]
例えばD. J. J. Farnell et al. J. Phys.: CM 21, 406002 (2009), T. Sakai and H. Nakano, PRB 83, 100405 (2011), C. Hotta et al. PRB 87, 115128 (2013).
[3]
Y. Shirata et al., PRL 108, 057205 (2012), T. Susuki et al., PRL 110, 267201 (2013), K. Okada et al. unpublished data.
[4]
G. Koutroulakis et al., PRB 91, 024410 (2015).
[5]
D. Yamamoto et al., PRL 114, 027201 (2015).
[6]
例えばW. Zheng et al., PRB 74, 224420 (2006).
[7]
S. Ito et al., Nat. Commun. 8, 235 (2017).
[8]
Y. Kojima et al., preprint.
[9]
F. Ferrari and F. Becca, PRX 9, 031026 (2019), C. Zhang and T. Li, PRB 102, 075108 (2020).
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