「学術の中長期研究戦略」の名称(日本語):グローバル・ヒストリーのための史料集編纂と史料学研究およびそれらを担う研究所の設立(仮)
提案の要旨(800字以内):
現在世界中で、歴史学の基礎となる史料デジタル画像のオンライン公開が進行している。一方、英語圏を先頭に、ヨーロッパ中心主義の打破による世界史の平準化を目指してグローバル・ヒストリーの構築が急がれている。しかし、研究の土台となる史料についての真摯な議論はなされておらず、おもに英語の史料や2次文献に基づいて研究が行われている。つまり、公開された史料と研究をつなぐ、世界各地の言語を視野に収めた史料集の編纂やそれを支える史料学の探求はいまだ意識的になされていないと言える。もしそれらが実現すれば、現在のグローバル・ヒストリーの水準を超える、多様性を担保しつつ、信頼性の高い、真に世界中の誰もが「自分たちの歴史だ」と思える歴史の誕生に寄与するであろう。
従来、一国史中心の歴史学を支えてきたのは、ナショナル・ベースで体系的、組織的に行われてきた、史料の目録作成、史料の翻刻、注の付与、翻訳などの作業――つまりは史料集の編纂――である。世界各国でその基盤は弱体化しており、史料のオンライン化と引き換えに縮小を迫られている。このような史料集編纂の隙間を埋め、全体として維持・発展させることが、グローバル・ヒストリーに豊穣をもたらす鍵となりうる。
このような事業は、一朝一夕にできるものではなく、長年にわたる経験の蓄積と技能の研鑽が必要である。わが国には、東京大学史料編纂所を中心に長年取り組んできた歴史があり、世界的に見ても稀有な基盤が備わっている。実現すれば、日本ならではの貢献として人類共通の財産となるであろう。
具体的には、16世紀以降20世紀初頭までの主として文献史料を扱う研究所を設立し、英語化一色に染まりつつある世界の中で、読まれなくなりつつある非英語史料を読み、史料集(原語、和訳、英文抄訳)をオンラインで公開する。また、史料学においても世界各地の研究者をつなぎ、国際的な拠点として活動する。